2021年05月23日

【文化審議会答申】重要文化財(建造物)の指定および重伝建の選定について


 5月21日(金)に開催された文化審議会において、「重要文化財(建造物)の指定について」および「重要伝統的建造物群保存地区の選定について」の答申がありました。内容は以下の通りです。

【重要文化財】
・木村産業研究所 1棟(青森県弘前市)
・代々木競技場 2棟 第一体育館、第二体育館(東京都渋谷区)
・御前埼灯台 1基、1棟 灯台、旧官舎(静岡県御前崎市)
・長命寺 2棟 三仏堂、護法権現社拝殿(滋賀県近江八幡市)
・第一大戸川橋梁 1基(滋賀県甲賀市)
・旧松坂屋大阪店 1棟(大阪府大阪市)
・旧西脇尋常高等学校 3棟 第一校舎、第二校舎、第三校舎(兵庫県西脇市)

【重要伝統的建造物群保存地区】
・南越前町今庄宿(福井県南条郡南越前町)
・若桜町若狭(鳥取県八頭郡若桜町)
・廿日市市宮島町(広島県廿日市市)

 モダニズム建築の巨匠ル・コルビュジエに師事した前川國男が、帰国後最初に築いた「木村産業研究所」が重文に。日本に現存する最古のモダニズム建築として建築史上重要な作品です。

 前川國男に続き、戦後を代表する建築家である丹下健三が手掛けた「代々木競技場 第一・第二体育館」も重文に。氏の作品としては「広島平和記念資料館」に続く2例目です。昭和39年(1964年)の東京オリンピックの際に築かれた大規模建築で、ワイヤーで天井を吊り下げて広大な空間を作り出しているのが特徴です。戦後期の日本建築における最高傑作と名高く、世界遺産を目指そうという動きもあるようです。

 去年「犬吠埼灯台」など明治初頭にお雇い外国人のリチャード・ブラントンによって設置された4基の灯台が重文になりましたが、今回もまた「御前埼灯台」が重文に。この流れは今後も続き、当初の姿をとどめるブラントン灯台の重文化が進められていくのでしょう。


現在は灯台としての役目を終え、内部の見学もできる「御前埼灯台」

 木造校舎が好きな身としては「旧西脇尋常高等学校」も気になります。昭和初期の木造校舎が3棟連結された貴重な校舎群で、現役で使用されている小学校の校舎としては愛媛県の「日土小学校 中校舎」、和歌山県の「旧高野口尋常高等小学校校舎」に次ぐ3例目です。

 重伝建の新選定は、北陸道の宿場町であった「南越前町今庄宿」、鬼ヶ城の城下町を起源とする山間の商家町「若桜町若狭」、厳島神社の門前町である「廿日市市宮島町」の3件。いずれも以前より選定に向けての動きが見られた地区ですが、中でも宮島町はかなり前から手続きが進められていたので、ようやくかといった印象です。


厳島神社を取り囲む「宮島町」のうち東町の「町家通り」


こちらは厳島神社から大聖院へと続く「西町」の町並み

 東町は海岸に沿って弓なりに続く路地に町家が並び、西町は厳島神社の附属寺院である大聖院や大願寺、社家などを中心に土塀や石垣が続く落ち着いたたたずまい。通りによって町並みの表情が異なるのが特徴的です。

 今回の重文指定は少なめですが、やはりコロナ禍の影響により調査に遅れが出ているとのことです。次の文化財答申は、例年通りであれば6月18日(金)に史跡等指定ですね。楽しみです。

posted by きむら at 19:16 | Comment(2) | TrackBack(0) | 文化財

2021年03月13日

個人書籍「カブ遍路〜四国を丸ごと楽しむ旅行法〜」通販開始のお知らせ


 2020年の秋に行ったリトルカブ(50cc原付)での四国遍路(+文化財巡り)についてまとめた個人書籍を作りましたので、そのご報告です。


・カブ遍路〜四国を丸ごと楽しむ旅行法〜
 (B5サイズ、フルカラー、20ページ)


 内容はカブで行った四国遍路についての情報のみならず、寄り道をした場所などについても写真多めでまとめています。何気に初めての中綴じ本でして、背表紙はありません。


 既にBOOTHにて通信販売を開始しております。本体価格に送料と手数料を含めた通販価格となりますが、どうぞよろしくお願いいたします。

→「閑古鳥旅行社‐BOOTH

posted by きむら at 19:07 | Comment(0) | TrackBack(0) | 個人書籍

2021年01月15日

【文化審議会答申】重要有形民俗文化財の指定等について


 2021年1月15日(金)に開催された文化審議会で「重要有形民俗文化財の指定等」の答申がありました。内容は以下の通りです。

《重要有形民俗文化財の指定》
・上尾の摘田・畑作用具【埼玉県上尾市】

《重要無形民俗文化財の指定》
・放生津八幡宮祭の曳山・築山行事【富山県射水市】
・寒水の掛踊 【岐阜県郡上市】
・阿波晩茶の製造技術【徳島県勝浦郡上勝町、那賀郡那賀町、海部郡美波町】
・対馬の盆踊【長崎県対馬市】
・野原八幡宮風流【熊本県荒尾市】

《登録有形民俗文化財の登録》
・高野山奉納小型木製五輪塔及び関連資料【和歌山県伊都郡高野町】
・鞆の鍛冶用具及び製品【広島県福山市】

《記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財の選択》
・用瀬の流しびな 【鳥取県鳥取市用瀬町】
・松江のホーランエンヤ【島根県松江市】

 日本の稲作は種から育てた苗を水田に植える「植田(うえた)」が一般的ですが、かつては水田に直接種を蒔く直播き栽培も行われており、関東地方では「摘田(つみた)」と呼ばれていました。明治以降、農業技術の発展によって摘田は衰退しましたが、埼玉県の上尾市では遅くまで摘田が行われており、その農業用具が残っているとのことです。

 個人的に気になるのは山深い四国山地の村々に継承されている「阿波晩茶の製造技術」です。平成30年(2018年)に記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財に選ばれ、今回の答申で重要無形民俗文化財に格上げされました。茶葉を乳酸発酵させたお茶とのことで、酸味があって普通の緑茶とは全然違う独特の風味なのだそうです。今度四国に行ったら探してみよう。

 瀬戸内海の中央部、古代より潮待ちの港として賑わった鞆からは、船具の鍛造で培われた鍛冶用具と製品が登録有形民俗文化財に。明治以降は陸運の発展により廻船業は衰退しましたが、その鍛冶の技術は鉄鋼業へと受け継がれ近代における鞆の産業を支えていきました。


今もなお江戸時代の風情を残す鞆の浦

 他にも華やかな曳山や風流などが目を引きます。去年からの新型コロナウイルスの影響により、どれだけの伝統行事が中止になったのかという心配はありますが、昔から連綿と続いてきた数多の無形文化財、この困難を見事乗り越え、将来へと受け継がれていくことでしょう。

posted by きむら at 20:06 | Comment(0) | TrackBack(0) | 文化財