2021年11月21日

【文化審議会答申】国宝・重要文化財(建造物)の指定について


 11月19日(金)に開催された文化審議会において、「国宝・重要文化財(建造物)の指定について」および「登録有形文化財(建造物)の登録について」の答申がありました。内容は以下の通りです。

【国宝】
・霧島神宮本殿・幣殿・拝殿 1棟(鹿児島県霧島市)

【重要文化財】
・旧三井銀行小樽支店 2棟 本館、附属屋(北海道小樽市)
・ニッカウヰスキー余市蒸留所施設 10棟 事務所棟、蒸留棟、貯蔵棟、リキュール工場、第一乾燥塔、第二乾燥塔、研究室・居宅、旧事務所、第一貯蔵庫、第二貯蔵庫(北海道余市郡余市町)
・上野家住宅(山梨県山梨市東) 5棟 主屋、文庫蔵、質蔵、穀蔵、表門(山梨県山梨市)
・京都ハリストス正教会生神女幅員聖堂 1棟(京都府京都市)
・江埼灯台 1基(兵庫県淡路市)
・美保関灯台 3棟 灯台、旧官吏員退息所、旧第一物置(島根県松江市)
・出雲日御埼灯台 1基(島根県出雲市)
・香川県庁舎旧本館及び東館 1棟(香川県高松市)
・若戸大橋 1基(福岡県北九州市)
・鹿児島神宮 3棟 本殿及び拝殿、勅使殿、摂社四所神社本殿(鹿児島県霧島市)

 近年における国宝建造物の指定は、まだ一件も国宝建造物が存在しない県からの指定を進めるという方針できており、今回もまたその流れを汲んで、鹿児島県から「霧島神宮」が県内初の国宝建造物になります。

 鹿児島県は先月の九州旅行で行ってきたばかりだったのですが、早くも再び行かねばならぬ理由ができました。いつも桜島から鹿児島市にフェリーで渡ってしまうので、霧島の辺りは一度も行ったことがないんですよね。

 重文指定の筆頭は「ニッカウヰスキー余市蒸留所施設」。昭和初期に築かれた施設群で、ウイスキーの蒸留所として初の重文となります。私は2015年に訪れましたが、蒸留所の一帯だけまるで空間が切り取られているかのような、実に素晴らしい雰囲気でした。創建当初の建物がまとまって残っており、重文になるべくしてなった施設だと思います。


正門を兼ねる事務所棟は、まるで西洋城郭のよう


石壁に赤い屋根の建物が連なっており、統一感ある景観を作っています

 余市蒸留所については、デイリーポータルZの記事にもしていますので、詳しくはこちらをご覧ください。→「余市蒸留所の異次元っぷりに驚いた

 昨年より、明治初頭に築かれたブラントン灯台の重文指定が続いていましたが、今回もまたブラントン灯台の「江埼灯台」が重文になります。さらには明治中期に日本人技術者によって築かれた「美保関灯台」および「出雲日御埼灯台」も重文となり、灯台の文化財としての厚みがより増した感じですね。

 今年の春には丹下健三の代表作である「代々木競技場」が重文指定の答申を受けていますが、今回もまた同氏が手掛けた「香川県庁舎旧本館及び東館」が重文に。また去年は長大橋の先駆けである「西海橋」が重文になりましたが、今回はその発展形といえる「若戸大橋」が重文に。

 今回の答申は、明治灯台、丹下建築、長大橋と、全体的に去年からの流れがそのままきているという感じの印象でした。個人的には重要伝統的建造物群保存地区の選定がなくて残念です。

 例年は10月の第三金曜日が建造物の答申で、11月の第三金曜日が史跡等の答申なのですが、今年は新設の無形登録文化財および美術工芸品の答申が10月に組み込まれたので、建造物が11月にズレたようです。となると史跡等の答申は12月17日(金)でしょうか。楽しみですね。

posted by きむら at 14:25 | Comment(0) | TrackBack(0) | 文化財

2021年07月23日

【文化審議会答申】国宝(美術工芸品)の指定等について


 2021年7月16日(金)に開催された文化審議会で「国宝・重要文化財(美術工芸品)の指定」「重要無形文化財の指定及び保持者の認定等」「選定保存技術の選定・認定・解除」「登録無形民俗文化財の登録」「登録有形文化財(建造物)の登録」についての答申がありました。内容は以下の通りです。

《国宝(美術工芸品)の指定》
・絹本著色春日権現験記絵 高階隆兼筆
・紙本著色蒙古襲来絵詞
・紙本金地著色唐獅子図 狩野永徳筆 六曲屏風
・絹本著色動植綵絵 伊藤若冲筆
・屏風土代 小野道風筆 保延六年十月廿二日藤原定信奥書

《重要無形文化財の指定及び保持者の認定等》
省略

《選定保存技術の選定・認定・解除》
省略

《登録無形民俗文化財の登録》
・讃岐の醤油醸造技術【香川県】
・土佐節の製造技術【高知県】

《登録有形文化財(建造物)の登録》
省略

 宮内庁の「三の丸尚蔵館」が保管する5つの品々が国宝に。いずれも歴史の教科書でおなじみの超一級文化財です。これまで宮内庁が所管する品々は文化財保護法の範疇外とされており、文化財指定はされてきませんでした。

 唯一の例外として、「正倉院正倉」だけは世界遺産『古都奈良の文化財』の構成資産であることから国宝に指定されています。世界遺産の構成資産となるためには、法的な保護措置が担保されていなければならないという手続き上の事情によるものでした。


宮内庁所管の文化財では、これまで唯一の国宝であった「正倉院正倉」

 ところが、ここに来て宮内庁所管の美術品5件が一気に国宝に指定とは、かなり驚きました。どうやらこれからは、宮内庁所管の美術工芸品を積極的に地方美術館へ貸し出す方針とのことで、それらの品々の価値を分かりやすく示すべきと宮内庁の有識者会議が提言したことにより、今回の国宝指定が実現したようです。これからは宮内庁所管の品々が文化財に指定されていき、国宝や重要文化財の数が一気に増えることでしょう。時代の流れですね。

 国内のみならず海外にもその価値を発信していくには、文化財指定を進めるのは良いことだと思います。ゆくゆくは美術工芸品のみならず建造物や庭園へと広がっていき、宮内庁が所管する様々なモノの歴史的価値が分かりやすくなると良いのではないでしょうか。具体的には単独で世界遺産級の価値がある「桂離宮」の国宝&特別史跡&特別名勝指定とか。


日本庭園の最高傑作「桂離宮」はもっと広く知られるべきだと思います

 他にも、今回は新たに創設された「登録無形民俗文化財」の第一弾として「讃岐の醤油醸造技術」と「土佐節の製造技術」が登録されました。食に関する文化財としては、今年「阿波晩茶の製造技術」が重要無形民俗文化財に指定されましたが、今回導入された登録制度によってその裾野が広がった感じですね。ユネスコの無形文化遺産リストに「和食」が記載されたこともあり、各地の食文化や身近な伝統文化の登録が増えていくことでしょう。

 一覧は省略しましたが、登録有形文化財では根室と国後島を繋いでいた海底ケーブルの陸揚げ施設「根室国後間海底電信線陸揚施設」や、名古屋市の「道徳公園クジラ池噴水」などが気になります。特に「クジラ池噴水」は昭和2年に築かれたクジラ型の噴水で(妙にリアルな造形です)、全国の児童公園にある動物型遊具の先駆け的な存在でしょうか。

 次の文化審議会は10月15日(金)の国宝・重要文化財(建造物)の指定および重要伝統的建造物群保存地区の選定ですね。楽しみです。

posted by きむら at 17:36 | Comment(0) | TrackBack(0) | 文化財

2021年06月20日

【文化審議会答申】史跡等の指定等について


 先日6月18日(金)に開催された文化審議会において、「史跡等の指定等」の答申がありました。内容は以下の通りです。

《史跡》
・栗木鉄山跡【岩手県気仙郡住田町】
・天王山遺跡【福島県白河市】
・取掛西貝塚【千葉県船橋市】
・飯盛城跡【大阪府大東市、四條畷市】
・條ウル神古墳【奈良県御所市】
・伊勢本街道【奈良県宇陀郡曽爾村】
・久喜銀山遺跡【島根県邑智郡邑南町】
・佐田谷・佐田峠墳墓群【広島県庄原市】
・弓削島荘遺跡【愛媛県越智郡上島町】
・陣ノ内城跡【熊本県上益城郡甲佐町】

《名勝》
・臥龍山荘庭園【愛媛県大洲市】

《天然記念物》
・葦毛湿原【愛知県豊橋市】

《登録記念物(名勝地関係)》
・松樹館庭園【滋賀県東近江市】
・漢陽寺庭園【山口県周南市】

《重要文化的景観》
・錦川下流域における錦帯橋と岩国城下町の文化的景観【山口県岩国市】

《史跡の追加指定及び名称変更》
・志段味古墳群 白鳥塚古墳 尾張戸神社古墳 中社古墳 南社古墳 志段味大塚古墳 勝手塚古墳 白鳥古墳群(東谷山白鳥古墳に隣接する白鳥5号墳・7号墳を追加指定し、名称を白鳥古墳群に変更する)【愛知県名古屋市】
・阿波遍路道 大日寺境内 地蔵寺境内 焼山寺境内 一宮道 常楽寺境内 恩山寺道 立江寺道 鶴林寺道 鶴林寺境内 太龍寺道 かも道 太龍寺境内 いわや道 平等寺道 平等寺境内 雲辺寺道(平等寺境内に向かう平等寺道及び平等寺境内【徳島県阿南市】を加える)
・土佐遍路道 竹林寺道 禅師峰寺道 清瀧寺境内 青龍寺道 観自在寺道(清瀧寺境内【高知県土佐市】及び観自在寺道【高知県宿毛市】を加える)

《名勝の追加指定及び名称変更》
・おくのほそ道の風景地 草加松原 ガンマンガ淵(慈雲寺境内) 八幡宮(那須神社境内) 殺生石 遊行柳(清水流るゝの柳) 黒塚の岩屋 武隈の松 つゝじが岡及び天神の御社 木の下及び薬師堂 壺碑(つぼの石ぶみ) 興井 末の松山 籬が島 金鶏山 高館 さくら山 本合海 三崎(大師崎) 象潟及び汐越 親しらず 有磯海 那谷寺境内(奇石) 道明が淵(山中の温泉) 湯尾峠 けいの明神(氣比神宮境内) 大垣船町川湊)(湯尾峠【福井県南条郡南越前町】を加える)

 戦国時代において最初に畿内を掌握したことから初代天下人とも称される三好長慶が晩年を過ごした飯盛城跡が史跡になります。山の尾根を利用した中世山城ですが、近年の調査によって城跡の全域から石垣が確認されており、畿内を中心とする政治・軍事の様相や、中世山城から織豊系城郭へと遷移していく過程を知る上で重要と評価されました。


土の城が基本の中世山城において石垣を多用している飯盛城跡

 他にも大和盆地から伊勢へと向かう主要街道であった「伊勢本街道」、古くより製塩を行ない塩を献上していた荘園の面影を色濃く残す「弓削島荘遺跡」など興味深いところが多いですね。

 毎度の恒例となっている四国遍路の史跡指定では『阿波遍路道』に第22番札所平等寺へと向かう「平等寺道」および「平等寺境内」が追加されました。相変わらず徳島県は遍路道の史跡指定に熱心で頑張ってる感じですね。


「平等寺道」のうち現在も歩く遍路が多い大根峠の前後の区間

 『土佐遍路道』には第35番札所「清瀧寺境内」および第40番観自在寺に向かう「観自在寺道」が追加。かつての国境越えにあたる松尾峠の遍路道は既に愛媛県側が『伊予遍路道』の一部として史跡になっていますが、その高知県側が今回追加指定された形です。


土佐から伊予へ、国境の松尾峠へと上る「観自在道」

 重要文化的景観では岩国城とその城下町を含む「錦川下流域における錦帯橋と岩国城下町の文化的景観」が選定されました。城山の山麓である横山地区には藩主の居館と上級武士の館が、錦川を挟んだ対岸の岩国地区には中下級武士や町人地が広がっており、その両地区をかの有名な錦帯橋が繋いでいます。岩国地区には今もなお格子状の地割が見られ、古い町家も残っています。


岩国城から見る錦帯橋、および横山地区(下側)と岩国地区(上側)

 以前より岩国市は錦帯橋とその周辺を世界遺産にしようと動いており、まずは城下町の重要伝統的建造物群保存地区選定を目指すと聞いていた気がしますが、結果的には重要文化的景観になったようですね。以前行って見た感じ、重伝建はちょっと厳しそうな印象を受けましたので、これは良い舵取りなのではないかと思います。

posted by きむら at 14:25 | Comment(0) | TrackBack(0) | 文化財