2023年11月25日

【文化審議会答申】重要文化財(建造物)の指定および重伝建の選定について


 11月24日(金)に開催された文化審議会において、「重要文化財(建造物)の指定について」および「重要伝統的建造物群保存地区の選定について」の答申がありました。内容は以下の通りです。

《重要文化財》
・箭弓稲荷神社本殿・幣殿・拝殿 1棟【埼玉県東松山市】
・宮津洗者聖若翰天主堂 1棟【京都府宮津市】
・旧尾藤家住宅 8棟 主屋、奥座敷、内蔵、新座敷、雑蔵、新蔵、奥蔵、米蔵【京都府与謝郡与謝野町】
・円教寺摩尼殿 1棟【兵庫県姫路市】
・金剛峯寺本坊 12棟 大主殿及び奥書院、真然堂、護摩堂、鐘楼、経蔵、山門、会下門、かご塀、築地塀【和歌山県伊都郡高野町】
・旧広島陸軍被服支廠倉庫施設 4棟 一〇番庫、一一番庫、一二番庫、一三番庫【広島県広島市】
・釣島灯台 1基、2棟 灯台、旧官舎、旧倉庫【愛媛県松山市】
・豊村酒造旧醸造場施設 12棟 主屋、本座敷、納戸蔵、麹室、酒庫、釜場、仕込庫及び酛取場、槽倉、試験室、古酒倉(南)、古酒倉(北)、作業場、土地【福岡県福津市】
・吉田松花堂 9棟 主屋、十五畳、大玄関、書院、茶室、旧御浴室及び御便所、下台所、土蔵、表門、土地【熊本県熊本市】

《重要伝統的建造物群保存地区》
・宇和島市津島町岩松【愛媛県宇和島市】

 以前から盛んに報道されていた、広島市にある最大級の被爆建物「旧広島陸軍被服支廠倉庫施設」が重文になりました。一時は広島県が所有する3棟のうち2棟が取り壊される話もありましたが、現存最古級の鉄筋コンクリート建築としての建築的な価値、唯一現存する旧陸軍被服廠の関連施設としての歴史的な価値がが認められ、国が所有する1棟を含む全4棟が保存されることに。注目度が高い案件なだけあって重文指定も迅速でしたね。

 高野山の中枢である金剛峯寺の本坊も重文に。文久2年(1862年)に築かれた大規模な本坊建築が群として残っており、極めて高い歴史的価値を有しています。姫路市の円教寺摩尼殿もですが、むしろまだ重文じゃなかったのって感じの大物案件。


歩き遍路の締めとして納経した思い出がある「高野山本坊」

 近年近代灯台の重文指定が続いていますが、今回は松山市の釣島灯台が重文に。明治6年(1873年)に築かれたブラントン灯台のひとつです。今後もまだまだブラントン灯台をはじめ近代灯台の重文指定が続いていくことでしょう。

 縮緬(ちりめん)の産業町として重伝建に選定されている与謝野町加悦。その中心的な縮緬問屋である「旧尾藤家住宅」も重文に。加悦には2007年に行った切りですが、その時は夕暮れが近く十分な取材ができなかったので、また行かなきゃと思っていました。これを期に再訪しよう。


時間がなくまともに見学できなかった「旧尾藤家住宅」

 重伝建の新選定は「宇和島市津島町岩松」、リアス式海岸の河口に発達した在郷町です。以前から重伝建の選定に向けて活発な動きを見せていましたが、ようやく結実しました。四国遍路第40番札所の観自在寺から宇和島城下へ至る遍路道の途上にあり、その点でも個人的に思い入れが深い町並みです。


川沿いの通りに沿って町家が並ぶ「津島町岩松」の町並み

 さて、今年度の文化審議会は建造物の新指定が10月から11月にずれ込みましたが、例年ならば12月にある史跡名勝天然記念物、1月の民俗文化財はどうなるのでしょうか。まぁ、注意深く動向を見ていくとしましょう。

posted by きむら at 12:46 | Comment(0) | TrackBack(0) | 文化財

2023年10月21日

【文化審議会答申】史跡名勝天然記念物の指定等について


 続いては7月21日(金)及び10月20日(金)の文化審議会における、「史跡名勝天然記念物の指定等」の答申です。といっても7月21日は追加の指定・選定だけで、新指定の答申は10月20日にありました。内容は以下の通りです。

《史跡》
・十五郎穴横穴群【茨城県ひたちなか市】
・姉小路氏城跡 古川城跡 小島城跡 野口城跡 向小島城跡 小鷹利城跡【岐阜県飛騨市】
・三河国府跡【愛知県豊川市】
・尾高城跡【鳥取県米子市】
・広島原爆遺跡【広島県広島市】
・西条酒蔵群【広島県東広島市】
・勝賀城跡【香川県高松市】
・博多遺跡【福岡県福岡市】
・菊池氏遺跡【熊本県菊池市】

《名勝》
・白水滝【岐阜県大野郡白川村】

《天然記念物及び名勝》
・サンニヌ台【沖縄県八重山郡与那国町】

《天然記念物》
・西別湿原ヤチカンバ群落【北海道野付郡別海町】

《登録記念物(名勝地関係)》
・藤川谷【徳島県三好市】
・夕日岩屋【大分県豊後高田市】
・朝日岩屋【大分県豊後高田市】
・落門の滝【大分県竹田市】

《史跡の統合・追加指定及び名称変更》
・総社古墳群 遠見山古墳 二子山古墳 愛宕山古墳 宝塔山古墳 蛇穴山古墳【群馬県前橋市】(既指定の二子山古墳、宝塔山古墳、蛇穴山古墳を統合し、かつ遠見山古墳、愛宕山古墳を追加指定し、総社古墳群に名称を変更する)

《史跡の追加指定及び名称変更》
・江馬氏城館跡 下館跡 高原諏訪城跡 傘松城跡 土城跡 寺林城跡 政元城跡 洞城跡 石神城跡【岐阜県飛騨市】(傘松城跡を追加指定する)
・狭山池 附 池守田中家旧宅【大阪府大阪狭山市】(附として池守田中家旧宅を追加指定する)
・伊予遍路道 観自在寺道 稲荷神社境内及び龍光寺境内 仏木寺道 明石寺道 明石寺境内 大寶道道 大寶道境内 岩屋寺道 岩屋寺境内 浄瑠璃地道 浄瑠璃寺境内 八坂寺境内 浄土寺境内 横峰寺道 横峰寺境内 三角寺奥之院道【愛媛県宇和島市、西予市、大洲市、松山市】(明石寺道、大寶寺道の一部及び八坂寺境内を追加指定する)

《重要文化的景観の追加選定》
・佐渡西三川の砂金山由来の農山村景観【新潟県佐渡市】

 茨城県ひたちなか市の「十五郎穴横穴群」は、北関東屈指の装飾古墳として知られる虎塚古墳のすぐ側にあります。舌状台地の崖面にうがたれた、古墳時代末期から平安時代初頭の横穴墓群です。首長墓として台地上に古墳が築かれ、それと密接に関係するものとして横穴墓が展開するとのこと。


虎塚古墳の壁画公開の際に十五郎穴横穴群も見ていました

 広島県東広島市の西条には昔ながらの酒蔵が密集する町並みが残っており、重要伝統的建造物群保存地区の選定を目指している――という情報は前から掴んでいましたが、それらの酒蔵が「西条酒蔵群」として国の史跡になることに。これにはちょっと驚きました。重伝建の申請に向けた調査を進めているうちに、史跡としての価値が明らかになったんでしょうね。このような産業遺産が史跡に指定される例は山形県酒田市の「山居倉庫」などがありますが、酒蔵としては初めて。


史跡に指定される四箇所の酒蔵うち白牡丹酒造の延宝蔵

 登録記念物では国東半島の田染荘にある「朝日岩屋」と「夕日岩屋」が登録名勝地に。昔ながらの田園風景を見下ろす奇岩の上にある、東西背中合わせの霊場です。夕日岩屋は重要文化的景観に選定されている小崎地区の展望地でもあります。


オーバーハング状にせり出した岩屋に祀られる朝日観音

 個人的なお楽しみである四国遍路関係ですが、今回も「伊予遍路道」にふたつの遍路道とひとつの札所が追加されました。第42番札所の仏木寺から第43番札所の明石寺へと続く「明石寺道」、明石寺から大洲城下を経て第44番札所の大寶寺へ続く「大寶寺道」、及び第47番札所の「八坂寺境内」です。

 具体的にいうと、「明石寺道」は三間盆地から宇和盆地へ抜ける歯長峠の三間側(宇和島市側)約600m、「大寶寺道」は宇和盆地から大洲盆地へ抜ける鳥坂峠の鳥坂口留番所跡から大洲市野佐来札掛の約4km。愛媛県は実に良い感じのペースで遍路道が追加されていってますね。今後も楽しみ。


歯長峠へと向かう昔ながらの遍路道

 他にも広島市の原爆爆心地から2km以内にある6箇所の被爆遺構を一括した「広島原爆遺跡」が新規に指定され、また既指定の「長崎原爆遺跡」には爆心地に隣接する「下の川」と被爆樹木がある「山王神社境内」が追加されました。単独で史跡指定かつ世界遺産でもある「原爆ドーム」は特別史跡への昇格を目指しているとのこと。

 さて、史跡名勝天然記念物の新指定が10月3週にずれこみましたが、本来だとこの文化審議会は建造物の新指定なのです。これがいつになるのか気になるところではありますが、アンテナを張りつつのんびり待つとしましょう。案外、来月くらいだったりするのかな。

posted by きむら at 16:37 | Comment(0) | TrackBack(0) | 文化財

【文化審議会答申】国宝・重要文化財(建造物)の指定について


 更新が滞っており申し訳ありません。ものすごく今更な感じになってしまいましたが、文化審議会の答申について書いていきます。今年は文化庁が京都に移転した影響か、文化審議会のスケジュールがイレギュラーかつ一回あたりの件数が少なめになっています。

 まずは6月23日(金)の文化審議会において、「国宝・重要文化財(建造物)の指定」の答申がありました。内容は以下の通りです。

《国宝》
・通潤橋 1基【熊本県上益城郡山都町】

《重要文化財》
・旧矢中家住宅 2棟 本館、別館、土地【茨城県つくば市】
・天満宮 2棟 本殿・幣殿・拝殿、末社春日社本殿【茨城県桐生市】
・手取川七ヶ用水取水施設 2基、1所 大水門 取入口隧道 富樫用水取入口水門【石川県白山市】
・軽井沢夏の家(旧アントニン・レーモンド軽井沢別邸) 1棟【長野県北佐久郡軽井沢町】
・真宗本廟東本願寺内事 3棟 洋館、日本館、鶴の間【京都府京都市】
・櫻井神社 3棟 本殿、拝殿、楼門【福岡県糸島市】
・祖神社本殿 1棟【福岡県糸島市】
・日家住宅 2棟 主屋、燻製室【宮崎県延岡市】

《重要文化財の追加指定》
・旧坂野家住宅(茨城県常総市大生郷町) 2棟 書院、文庫蔵【茨城県常総市】
・富岡家住宅 土地【山梨県甲府市】
・真宗本廟東本願寺 14棟 宝蔵、大玄関及び大寝殿、白書院、黒書院、宮御殿、桜下亭、能舞台、議事堂、表小書院、菊門、玄関門、寺務所門、内事門、十三窓土蔵【京都府京都市】

 熊本県の白糸台地に水を供給する水路橋の「通潤橋」が国宝に。嘉永7年(1854年)に築かれた石造アーチ橋で、数多くの石橋が架けられた熊本県でも最大級です。石造物としては沖縄県の玉陵に次ぐ二例目、橋など土木構造物としては初の国宝指定です。


近世石橋の傑作である通潤橋

 お次は群馬県桐生市の「天満宮」。織物業の町として重要伝統的建造物群保存地区に選定されている桐生新町の北側に鎮座する神社で、寛政元年(1789年)建造の本殿はびっしりとした装飾で覆われています。北関東で発展した装飾社殿が江戸時代後期において爛熟する様相を示すものと評価されています。


彫刻で覆われた桐生天満宮の本殿

 他にも東本願寺の建造物群や、宗主の住まいとして築かれた内事も重要文化財になりました。元治元年(1864年)の大火の後、明治から昭和初期にかけて再建された東本願寺伽藍のほぼ全体が重文になったと言えるでしょう。

 昭和初期の木造モダニズムである軽井沢夏の家や、農業用水の取水施設である手取川七ヶ用水取水施設など、今回は指定件数こそ少なめながらも興味深い建築が多いですね。

posted by きむら at 14:33 | Comment(0) | TrackBack(0) | 文化財