2020年01月24日

【文化審議会答申】重要有形民俗文化財の指定等について


 2020年1月17日(金)に開催された文化審議会で「重要有形民俗文化財の指定等」の答申がありました。内容は以下の通りです。

《重要有形民俗文化財の指定等》
・行田の足袋製造用具及び関係資料【埼玉県行田市】
・志木の田子山富士塚【埼玉県志木市】
・立山信仰用具(追加指定)【富山県富山市】

《重要無形民俗文化財の指定》
・近江湖南のサンヤレ踊り【滋賀県草津市、栗東市】
・近江のケンケト祭り長刀振り【滋賀県守山市、甲賀市、東近江市、蒲生郡竜王町】
・因幡・但馬の麒麟獅子舞【鳥取県鳥取市、岩美郡岩美町、八頭郡八頭町・若桜町、東伯郡湯梨浜町、兵庫県美方郡新温泉町・香美町】
・博多松囃子【福岡県福岡市博多区】
・感応楽【福岡県豊前市大字四郎丸】
・与論島の芭蕉布製造技術【鹿児島県大島郡与論町】

《登録有形民俗文化財の登録》
・武庫川女子大学近代衣生活資料【兵庫県西宮市池開町】
・別府の湯突き用具【大分県別府市上野口町】

《記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財の選択》
・浜通りのお浜下り【福島県新地町、相馬市、南相馬市、相馬郡飯舘村、双葉郡浪江町・双葉町・大熊町・富岡町・楢葉町・広野町、いわき市】
・近江の郷祭り【滋賀県】
・東坊城のホーランヤ【奈良県橿原市東坊城町】
・山中のお改めとシシ狩り行事【島根県江津市桜江町長谷】
・池田の柴祭り【鹿児島県肝属郡錦江町池田】

 前回の答申で特別史跡に格上げされることになった埼玉古墳群を擁する行田市から「行田の足袋製造用具及び関係資料」が重要無形民俗文化財になることに。行田は江戸時代より足袋の生産が盛んな土地であり、明治に入ると機械の導入によりさらに生産が拡大。最盛期の昭和初期には全国の約80%が行田産だったといいます。現在も町のあちらこちらに足袋をストックしておく足袋蔵が見られ、また縫製工場も残っています。その行田足袋の製造技術の変異を示す製造具と関連資料の計5484点が指定対象とのこと。


今も数多くの足袋蔵が残る行田の町並み

 古くより信仰の対象であった富士山。江戸時代の中期以降は富士講による富士登山が盛んに行われていましたが、そう簡単に行ける所でもないことから、誰もが簡単に富士登山を体験できるミニチュア富士山「富士塚」が東京都や埼玉県などに数多く作られました。「志木の田子山富士塚」は明治5年(1872年)に完成したもので現状態が良く、規模も大きく優美かつ富士塚要素を良く備えるものとして重要有形民俗文化財になります。富士塚は「豊島長崎の富士塚」など4件が既に重要有形民俗文化財となっており、これで5件目です。これまでのものはすべて江戸時代に築かれたものなので、明治時代のものとして初めての指定となります。


富士塚はこういう富士山を模した築山です
(これは東京都文京区護国寺のもので、今回指定されるものではないです)

 重要無形民俗文化財では滋賀県から「近江湖南のサンヤレ踊り」と「近江のケンケト祭り長刀振り」の二つの祭礼芸能が指定されることに。サンレヤは囃子詞、ケンケトは口唱歌を意味するそうですが、いずれもユニークで楽し気なつい口に出してみたくなる響きですね。

 それにしても、通年なら2月の「重要有形民俗文化財」の答申が1月に来たのは意外でした。3月の「国宝・重要文化財(美術工芸品)」も前倒しになったりするのかな。

posted by きむら at 18:13 | Comment(0) | TrackBack(0) | 文化財

2019年11月16日

【文化審議会答申】史跡等の指定等について


 2019年11月15日(金)に開催された文化審議会で「史跡等の指定等について」の答申がありました。内容は以下の通りです。

《特別史跡》
・埼玉古墳群【埼玉県行田市】

《史跡》
・小山崎遺跡【山形県飽海郡遊佐町】
・磯浜古墳群【茨城県茨城郡大洗町】
・上野国多胡郡正倉跡【群馬県高崎市】
・神明貝塚【埼玉県春日部市】
・午王山遺跡【埼玉県和光市】
・光明山古墳【静岡県浜松市】
・永原御殿跡及び伊庭御殿跡【滋賀県野洲市・東近江市】
・安宅氏城館跡【和歌山県西牟婁郡白浜町】
・大元古墳【島根県益田市】
・讃岐国府跡【香川県坂出市】
・引田城跡【香川県東かがわ市】
・阿恵官衙遺跡【福岡県糟屋郡粕屋町】
・杵築城跡【大分県杵築市】
・鹿児島島津家墓所【鹿児島県鹿児島市・指宿市・垂水市・姶良市・薩摩郡さつま町】
・白保竿根田原洞窟遺跡【沖縄県石垣市】

《名勝》
・成田氏庭園【青森県弘前市】
・對馬氏庭園【青森県弘前市】
・須藤氏庭園(青松園)【青森県弘前市】
・哲学堂公園【東京都中野区】

《史跡の追加指定及び名称変更》

・大野原古墳群【香川県観音寺市】
 椀貸塚古墳 平塚古墳 角塚古墳 岩倉塚古墳(岩倉塚古墳を加える)
・長崎台場跡【長崎県長崎市】
 魚見岳台場跡 四郎ヶ島台場跡 女神台場跡(女神台場跡を加える)

《名勝の追加指定及び名称変更》
・多賀大社庭園【滋賀県犬上郡多賀町】
・英彦山庭園【福岡県田川郡添田町】
 旧座主御本坊庭園 旧座主御下屋庭園 旧政所坊庭園 旧亀石坊庭園 旧泉蔵坊庭園 旧顕揚坊庭園 英彦山神宮旅殿庭園

《登録記念物(遺跡関係)》
・二ヶ領用水【神奈川県川崎市】

《登録記念物(名勝地関係)》
・染谷氏庭園【千葉県柏市】
・魚津浦の蜃気楼(御旅屋跡)【富山県魚津市】
・長峯氏庭園(旧河原氏庭園)【長野県長野市】
・横山氏庭園【三重県三重郡菰野町】

 5世紀末から7世紀初頭にかけての古墳群「埼玉(さきたま)古墳」が特別史跡に格上げです。関東、いや東日本を代表する規模の古墳群であり、辛亥年の紀年名が刻まれた金錯銘鉄剣(古代日本史を研究する上で欠かせない超一級品の史料です)をはじめ出土品が国宝に指定されているなど、特別史跡の風格は十分。また埼玉県という県名は、この古墳群を中心とする埼玉郡が由来でもあります。


巨大な前方後円墳や円墳が集まる埼玉古墳群

 琵琶湖の東岸、朝鮮人街道沿いに位置する「永原御殿跡及び伊庭御殿跡」は、江戸時代初期に徳川家康・秀忠・家光が上洛する際に利用した宿泊施設と休憩施設の跡です。将軍の上洛の実態を示す遺跡としてなかなかユニークですね。そのうち伊庭御殿跡は「伊庭内湖の文化的景観」として重要文化的景観に選定されている範囲内にあり、その取材で立ち寄っています。


伊庭御殿跡では石垣や湧き水の跡などが確認できました

 名勝では弘前市にある三つの個人宅の庭園。いずれもリンゴ栽培で富を蓄えた豪農の庭で、現在も人が住んでおられるようなので一般見学はできないのかな? 「對馬氏庭園」に至ってはまだ正確な位置が特定できていません(これから頑張って調べます)。東京の哲学堂公園は明治時代に開設され、大正、昭和に拡張された公園です。近頃は近代の都市公園の名勝指定が増えてきてますね。

 今回、残念だったのは重要文化的景観の選定がなかったこと。そろそろ「勝沼のブドウ畑とワイナリー群」が来ると思っていたのですが……来年に期待です。あと、遍路道の史跡指定もなかったですね。こちらも毎回楽しみにしていたので残念です。これで今年の文化審議会答申は終わり、次は2月の「重要有形民俗文化財」、そして3月の「国宝・重要文化財(美術工芸品)」と続きます。楽しみですね。

posted by きむら at 19:17 | Comment(0) | TrackBack(0) | 文化財

2019年11月01日

【文化審議会答申】重要文化財(建造物)の指定および重伝建の選定について


 うっかりもう先月になってしまいましたが、私が北陸を旅行していた最中の10月18日(金)に開催された文化審議会において、「重要文化財(建造物)の指定について」および「重要伝統的建造物群保存地区の選定について」の答申がありました。内容は以下の通りです。

【重要文化財】
・塩原家住宅 主屋、裏蔵、稲荷社、土地(群馬県前橋市)
・水準原点 原点、掩蓋(東京都千代田区)
・旧島津家本邸 本館、事務所(東京都品川区)
・神奈川県庁舎(神奈川県横浜市)
・金剛寺 五仏堂、薬師堂、閼伽井屋、護摩堂、法具蔵、求聞持堂、開山堂、宝蔵、経蔵、弁財天社本殿、八大龍王善女龍王社本殿、天照皇大神社本殿、築地塀(2所)、鎮守水分明神社本殿、鎮守丹生高野明神社本殿、鎮守社拝殿、鎮守社鐘楼、旧理趣院表門、旧真福院表門、南門、総門(大阪府河内長野市)
・徳善家住宅(徳島県三次市)

【重要文化財(追加指定)】
・喜多家住宅 作業場、酒蔵、前蔵、貯蔵庫(石川県野々市市)
・摩尼院 表門、築地塀(大阪府河内長野市)
・木村家住宅 隠居屋、土地(徳島県三次市)

【重要伝統的建造物群保存地区】
・たつの市龍野(兵庫県たつの市)
・南さつま市加世田麓(鹿児島県南さつま市)

 国会議事堂の前、憲政記念館の庭園にある「水準原点」が重文に。日本国土の標高を測った水準測量の原点です。お恥ずかしながら、国会議事堂の前にそのようなモノがあるとは知りませんでした。水準点は掩蓋に覆われており普段は見ることができませんが、年に一度測量の日あたりに一般公開があるらしいので、来年行ってみたいと思います。

 横浜三塔のうち「キングの塔」こと昭和3年(1928年)に建てられた神奈川県庁舎がついに重文に。鉄骨鉄筋コンクリートの近代建築に和風の装飾を施した、いわゆる帝冠様式の代表格です。同様の帝冠様式である愛知県庁舎や名古屋市庁舎、東京国立博物館本館は既に重文なので、ようやくかって感じです。


どっしりと威厳あるたたずまいの「神奈川県庁舎」

 大阪府河内長野市の大寺院「金剛寺」は金堂や御影堂、楼門など主要な堂宇は既に重文ですが、その脇を固める諸堂もまとめて重文になります。……っていうか、なぜか新指定扱いなんですよね、コレ。既指定のお堂はそれぞれ個別の重文指定だからでしょうか。改めて「金剛寺」のくくりでまとめて、追加指定扱いにすれば良いのにと思うのですが。なぜそうしないのか、謎だ。

 重伝建の新選定は薄口醤油の醸造で栄えた「龍野」と、薩摩藩の外城であった「加世田麓」。龍野は前々から動きがあったので、やっぱり来たかという感じですね。広島県の宮島も重伝建に向けて動いていたのでそろそろかと思ったのですが、こちらは今回じゃなかったみたいで。次回かな?

 次の文化財答申は、おそらく11月15日(金)の史跡等指定ですね。以前より動きがあった「勝沼のブドウ畑とワイナリー群」の重要文化的景観の選定はくるかな? 楽しみです。

posted by きむら at 16:39 | Comment(0) | TrackBack(0) | 文化財