2021年01月15日

【文化審議会答申】重要有形民俗文化財の指定等について


 2021年1月15日(金)に開催された文化審議会で「重要有形民俗文化財の指定等」の答申がありました。内容は以下の通りです。

《重要有形民俗文化財の指定》
・上尾の摘田・畑作用具【埼玉県上尾市】

《重要無形民俗文化財の指定》
・放生津八幡宮祭の曳山・築山行事【富山県射水市】
・寒水の掛踊 【岐阜県郡上市】
・阿波晩茶の製造技術【徳島県勝浦郡上勝町、那賀郡那賀町、海部郡美波町】
・対馬の盆踊【長崎県対馬市】
・野原八幡宮風流【熊本県荒尾市】

《登録有形民俗文化財の登録》
・高野山奉納小型木製五輪塔及び関連資料【和歌山県伊都郡高野町】
・鞆の鍛冶用具及び製品【広島県福山市】

《記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財の選択》
・用瀬の流しびな 【鳥取県鳥取市用瀬町】
・松江のホーランエンヤ【島根県松江市】

 日本の稲作は種から育てた苗を水田に植える「植田(うえた)」が一般的ですが、かつては水田に直接種を蒔く直播き栽培も行われており、関東地方では「摘田(つみた)」と呼ばれていました。明治以降、農業技術の発展によって摘田は衰退しましたが、埼玉県の上尾市では遅くまで摘田が行われており、その農業用具が残っているとのことです。

 個人的に気になるのは山深い四国山地の村々に継承されている「阿波晩茶の製造技術」です。平成30年(2018年)に記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財に選ばれ、今回の答申で重要無形民俗文化財に格上げされました。茶葉を乳酸発酵させたお茶とのことで、酸味があって普通の緑茶とは全然違う独特の風味なのだそうです。今度四国に行ったら探してみよう。

 瀬戸内海の中央部、古代より潮待ちの港として賑わった鞆からは、船具の鍛造で培われた鍛冶用具と製品が登録有形民俗文化財に。明治以降は陸運の発展により廻船業は衰退しましたが、その鍛冶の技術は鉄鋼業へと受け継がれ近代における鞆の産業を支えていきました。


今もなお江戸時代の風情を残す鞆の浦

 他にも華やかな曳山や風流などが目を引きます。去年からの新型コロナウイルスの影響により、どれだけの伝統行事が中止になったのかという心配はありますが、昔から連綿と続いてきた数多の無形文化財、この困難を見事乗り越え、将来へと受け継がれていくことでしょう。

posted by きむら at 20:06 | Comment(0) | TrackBack(0) | 文化財

2021年01月10日

【文化審議会答申】史跡等の指定等について


 年をまたいでしまい物凄く今更な感じで恐縮ですが、11月20日(金)に開催された文化審議会において、「史跡等の指定等」の答申がありました。内容は以下の通りです。

《史跡》
・屋形遺跡【岩手県釜石市】
・赤井官衙遺跡群 赤井官衙遺跡 矢本横穴【宮城県東松島市】
・山居倉庫【山形県酒田市】
・鈴木遺跡【東京都小平市】
・鈴鹿関跡【三重県亀山市】
・舟木遺跡【兵庫県淡路市】
・湯浅党城館跡【和歌山県有田郡湯浅町・有田郡有田川町】
・樫野埼灯台及びエルトゥールル号遭難事件遺跡【和歌山県東牟婁郡串本町】
・下岡田官衙遺跡【広島県安芸郡府中町】
・久留米藩主有馬家墓所【福岡県久留米市】
・小部遺跡【大分県宇佐市】
・北谷城跡【沖縄県中頭郡北谷町】

《名勝》
・神仙郷【神奈川県足柄下郡箱根町】
・知恩院方丈庭園【京都府京都市】
・仁和寺御所庭園【京都府京都市】

《天然記念物》
・糸魚川市根知の糸魚川−静岡構造線【新潟県糸魚川市】
・溝ノ口洞穴【鹿児島県曽於市】
・伊平屋島のウバメガシ群落【沖縄県島尻郡伊平屋村】

《重要文化的景観》
・加賀海岸地域の海岸砂防林及び集落の文化的景観【石川県加賀市】
・越前海岸の水仙畑 下岬の文化的景観【福井県福井市】
・越前海岸の水仙畑 上岬の文化的景観【福井県丹生郡越前町】
・越前海岸の水仙畑 糠の文化的景観【福井県南条郡南越前町】
・瀬戸内海姫島の海村景観【大分県国東郡姫島村】

《史跡の追加指定及び名称変更》
・古市古墳群 古室山古墳 赤面山古墳 大鳥塚古墳 助太山古墳 鍋塚古墳 城山古墳 峯ヶ塚古墳 墓山古墳 野中古墳 応神天皇陵古墳外濠外堤 鉢塚古墳 はざみ山古墳 青山古墳 蕃所山古墳 稲荷塚古墳 東山古墳 割塚古墳 唐櫃山古墳 松川塚古墳 浄元寺山古墳 白 鳥陵古墳周 堤 仲姫命陵古墳周堤(白鳥陵古墳周堤・ 仲姫命陵古墳周堤【大阪府羽曳野市・藤井寺市】を加える)
・阿波遍路道 大日寺境内 地蔵寺境内 焼山寺境内 一宮道 常楽寺境内 恩山寺道 立江寺道 鶴林寺道 鶴林寺境内 太龍寺道 かも道 太龍寺境内 いわや道 平等寺道 雲辺寺道(常楽寺境内【徳島県徳島市】を加える)
・讃岐遍路道 曼荼羅寺道 善通寺境内 根来寺道 大窪寺道(大窪寺道【香川県さぬき市】を加える)
・伊予遍路道 観自在寺道 稲荷神社境内及び龍光寺境内 仏木寺道 明石寺境内 大寶寺道 岩屋寺道 横峰寺道 横峰寺境内 三角寺奥之院道(岩屋寺道【愛媛県上浮穴郡久万高原町】を加える)
・土佐遍路道 竹林寺道 禅師峰寺道 青龍寺道(竹林寺道・禅師峰寺道【高知県高知市】を加える)

《登録記念物(名勝地関係)》
・和泉市久保惣記念美術館茶室庭園【大阪府和泉市】
・嫁ケ島(蚊島)【島根県松江市】
・真玉海岸【大分県豊後高田市】
・津嘉山酒造所庭園【沖縄県名護市】
・ハナンダー(自然橋)【沖縄県島尻郡八重瀬町】

《登録記念物(動物,植物及び地質鉱物関係)》
・震生湖【神奈川県秦野市・足柄上郡中井町】

 最上川の河口に位置する山形県酒田市からは「山居倉庫」が国指定史跡に。明治26年(1893年)に築かれた坂田米穀取引所の附属倉庫で、庄内米の保管や取引に使われていた大規模施設です。現在も倉庫として現役であり、それらの倉庫群とケヤキ並木が連なる光景は酒田市を代表する景観として有名です。


酒田市のシンボルである、山居倉庫とケヤキ並木が連なる光景

 他にも、古代の律令国家において重視された三関のひとつ「鈴鹿関跡」や、トルコとの良好な国際交流の礎といえる「エルトゥールル号遭難事件遺跡」、米軍基地から返還された土地にある「北谷城跡」など、なかなかに興味深いものが多いです。

 重要文化的景観では「加賀海岸の砂防林」および「越前海岸の水仙畑」といった、冬に荒波が押し寄せる日本海沿岸の地域に根差した風景が新選定。特に「越前海岸の水仙畑」は3つの自治体にまたがっています。水仙のシーズンは12〜1月とまさにこの時期なのですが、さすがに冬の日本海沿岸は寒すぎてカブで取材に行くのはムリかなぁ。公共交通機関で周れるのだろうか。

 今回の答申では遍路道の追加指定がたくさんあって四国遍路に思い入れのある個人的には嬉しい限りです。まず、『阿波遍路道』に第14番札所の「常楽寺境内」が追加されました。阿波青石(緑色片岩)の岩盤上に堂宇が建っており、独特の風情を見せる札所です。


荒々しい岩盤が露出する常楽寺境内

 『土佐遍路道』には第31番札所竹林寺へ向かう「竹林寺道」および第32番禅師峰寺に向かう「禅師峰寺道」が追加。どちらも竹林寺がある五台山に残る古道です。そのうち「禅師峰寺道」は現在も多くの遍路が歩いていますが、「竹林寺道」の方は現在の遍路道とは外れているのでほとんど歩く人はいないと思われます。かつて五台山は独立した島でしたので、高知城下から船で西麓の吸江寺へと渡っていた遍路が使っていたルートのようです。


現在は歩く人が少ないものの、石段や石造物が良好に残る「竹林寺道」

 『伊予遍路道』には第45番札所の岩屋寺へと続く「岩屋寺道」が追加。第46番札所の大寶寺から畑野川地区へ抜ける遍路道の一部、および岩屋寺への難所として知られる八丁坂とその前後の遍路道、計約4.2kmが範囲です。

 『讃岐遍路道』には第88番札所の大窪寺へと続く旧遍路道の一部が「大窪寺道」として追加。県道3号線および国道377号線沿いに残る断片的な古道の6区間(計約1.5km)が対象です。私が歩き遍路をやった10年前は全く気付かなかった古道ですが、近年になって歩けるよう整備され、現在は道標も存在するようです。次に遍路をやる時にはぜひとも歩いてみたいですね。

posted by きむら at 19:38 | Comment(0) | TrackBack(0) | 文化財

2020年10月20日

【文化審議会答申】国宝・重要文化財(建造物)の指定および重伝建の選定について


 昨日四国旅行から帰ってきました。10月16日(金)(私が四国八十八箇所すべてを周り終えた日でもあります)に開催された文化審議会において、「国宝・重要文化財(建造物)の指定について」および「重要伝統的建造物群保存地区の選定について」の答申がありました。内容は以下の通りです。

【国宝】
・八坂神社本殿 1棟(京都府京都市)

【重要文化財】
・旧札幌控訴院庁舎 1棟(北海道札幌市)
・犬吠埼灯台 1基、2棟 灯台、旧霧笛舎、旧倉庫(千葉県銚子市)
・明治神宮 36棟 本殿、内拝殿及び祝詞殿、内院渡廊(2棟)、外拝殿、宝庫、神庫、内透塀及び北門、神饌所及び渡廊、旧祭器庫、北廻廊(2棟)、外透塀(3棟)、北神門、外院廻廊(4棟)、東神門、西神門、南神門、宿衛舎、玉垣(4棟)、祓社、南手水舎、西手水舎、東手水舎、神橋、南制札、北制札、西制札(東京都渋谷区)
・旧神奈川県立近代美術館 1棟(神奈川県鎌倉市)
・旧山岸家住宅 4棟 主屋、板倉、味噌蔵、浜蔵、土地(石川県白山市)
・旧中村家住宅 2棟 主屋、土蔵(長野県塩尻市)
・坂戸橋 1基(長野県上伊那郡中川村)
・八勝館 9棟 玄関棟、松の間棟、御幸の間棟、新座敷棟、菊の間棟、田舎家、正門、西門、中門、土地(愛知県名古屋市)
・紅葉谷川庭園砂防施設 1所(広島県廿日市市)
・六連島灯台 1基(山口県下関市)
・角島灯台 1基、2棟 灯台、旧官舎、旧倉庫(山口県下関市)
・犬伏家住宅 15棟 主屋、座敷、応接室、書斎、宝庫、離座敷、北蔵、乾蔵、味噌蔵、機械工場、五番蔵、東蔵、巽蔵、前納屋、表門、土地(徳島県板野郡藍住町)
・部埼灯台 2基、1棟 灯台、旧官舎、旧昼間潮流信号機(福岡県北九州市)
・旧伊藤家住宅 7棟 主屋、表物置、道具蔵、骨董蔵、事務室、書生室、長屋門(福岡県飯塚市)
・西海橋 1基(長崎県佐世保市、西海市)
・旧綱ノ瀬橋梁及び第三五ヶ瀬川橋梁 2基 旧綱ノ瀬橋梁、第三五ヶ瀬川橋梁(宮崎県延岡市、日之影町)

【重要文化財(追加指定)】
・八坂神社 26棟 疫神社本殿、悪王子社本殿、美御前社本殿、大国主社本殿、玉光稲荷社本殿、日吉社本殿、太田社本殿、大年社本殿、十社本殿、五社本殿、冠者殿社本殿、四条旅所本殿(2棟)、大政所社本殿、俣旅社本殿、舞殿、神饌所、透塀、神馬舎、神輿庫、絵馬堂、西手水舎、南手水舎、西楼門翼廊(2棟)、南楼門(京都府京都市)
・遠山家住宅 3棟 米蔵、借物蔵、長屋門、土地(京都府亀岡市)

【重要伝統的建造物群保存地区】
・高岡市吉久(富山県高岡市)
・津山市城西(岡山県津山市)
・矢掛町矢掛宿(岡山県小田郡矢掛町)

 祇園祭であまりに有名な京都「八坂神社」の本殿が国宝、そして既指定の3棟に26棟が追加され社殿群の大部分が重文に。本殿は江戸時代前期の建立ですが、平安時代の建築手法をもって鎌倉時代に成立した本殿様式が高く評価されました。社殿群も八坂神社固有のものが多く、実にユニーク。


八坂神社には2008年の冬に訪れた切りなので、また行かねば

 「明治神宮」もまた社殿群が一括して重文に。元は伊藤忠太の設計指導により大正9年(1920年)に築かれましたが太平洋戦争で焼失。現在のものは昭和33年(1958年)の再建です。同じく昭和前期の建築として、昭和26年(1951年)の「旧神奈川県立近代美術館」もまた重文に。鎌倉の鶴岡八幡宮境内にあり、ル・コルビュジェの弟子である坂倉準三が設計した、日本におけるモダニズム黎明期の作品です。

 他にも犬吠埼灯台をはじめとする明治初頭の灯台4基の重文指定も特筆すべきところでしょう。これまで灯台で重文になっているのは愛知県の明治村に移築された「旧品川燈台」だけで(伊豆の「神子元島燈台」と大阪堺の「旧堺燈台」は史跡指定)、現役の灯台が重文になるのはこれが初です。

 重伝建の新選定は、加賀藩の御蔵が置かれていた物資の集散地「高岡市吉久」と、津山城下の寺町と商家町からなる「津山市城西」、山陽道の宿場町「矢掛町矢掛宿」の3件。いずれも以前から選定に向けた動きがあった地区で、まぁ、順当な感じですね。


通りに面して切妻造平入の町家が並ぶ「高岡市吉久」

 高岡市は「山町筋」「金屋町」に次ぐ3件目、津山市は「城東」に次ぐ2件目で、それぞれ城下町における町並み保護の厚さが増した感じです。


妻入と平入の町家が混在する「矢掛町矢掛宿」には本陣と脇本陣が揃って残る

 次の文化財答申は11月20日(金)の史跡等指定でしょうか。楽しみですね。

posted by きむら at 16:39 | Comment(0) | TrackBack(0) | 文化財