2021年07月23日

【文化審議会答申】国宝(美術工芸品)の指定等について


 2021年7月16日(金)に開催された文化審議会で「国宝・重要文化財(美術工芸品)の指定」「重要無形文化財の指定及び保持者の認定等」「選定保存技術の選定・認定・解除」「登録無形民俗文化財の登録」「登録有形文化財(建造物)の登録」についての答申がありました。内容は以下の通りです。

《国宝(美術工芸品)の指定》
・絹本著色春日権現験記絵 高階隆兼筆
・紙本著色蒙古襲来絵詞
・紙本金地著色唐獅子図 狩野永徳筆 六曲屏風
・絹本著色動植綵絵 伊藤若冲筆
・屏風土代 小野道風筆 保延六年十月廿二日藤原定信奥書

《重要無形文化財の指定及び保持者の認定等》
省略

《選定保存技術の選定・認定・解除》
省略

《登録無形民俗文化財の登録》
・讃岐の醤油醸造技術【香川県】
・土佐節の製造技術【高知県】

《登録有形文化財(建造物)の登録》
省略

 宮内庁の「三の丸尚蔵館」が保管する5つの品々が国宝に。いずれも歴史の教科書でおなじみの超一級文化財です。これまで宮内庁が所管する品々は文化財保護法の範疇外とされており、文化財指定はされてきませんでした。

 唯一の例外として、「正倉院正倉」だけは世界遺産『古都奈良の文化財』の構成資産であることから国宝に指定されています。世界遺産の構成資産となるためには、法的な保護措置が担保されていなければならないという手続き上の事情によるものでした。


宮内庁所管の文化財では、これまで唯一の国宝であった「正倉院正倉」

 ところが、ここに来て宮内庁所管の美術品5件が一気に国宝に指定とは、かなり驚きました。どうやらこれからは、宮内庁所管の美術工芸品を積極的に地方美術館へ貸し出す方針とのことで、それらの品々の価値を分かりやすく示すべきと宮内庁の有識者会議が提言したことにより、今回の国宝指定が実現したようです。これからは宮内庁所管の品々が文化財に指定されていき、国宝や重要文化財の数が一気に増えることでしょう。時代の流れですね。

 国内のみならず海外にもその価値を発信していくには、文化財指定を進めるのは良いことだと思います。ゆくゆくは美術工芸品のみならず建造物や庭園へと広がっていき、宮内庁が所管する様々なモノの歴史的価値が分かりやすくなると良いのではないでしょうか。具体的には単独で世界遺産級の価値がある「桂離宮」の国宝&特別史跡&特別名勝指定とか。


日本庭園の最高傑作「桂離宮」はもっと広く知られるべきだと思います

 他にも、今回は新たに創設された「登録無形民俗文化財」の第一弾として「讃岐の醤油醸造技術」と「土佐節の製造技術」が登録されました。食に関する文化財としては、今年「阿波晩茶の製造技術」が重要無形民俗文化財に指定されましたが、今回導入された登録制度によってその裾野が広がった感じですね。ユネスコの無形文化遺産リストに「和食」が記載されたこともあり、各地の食文化や身近な伝統文化の登録が増えていくことでしょう。

 一覧は省略しましたが、登録有形文化財では根室と国後島を繋いでいた海底ケーブルの陸揚げ施設「根室国後間海底電信線陸揚施設」や、名古屋市の「道徳公園クジラ池噴水」などが気になります。特に「クジラ池噴水」は昭和2年に築かれたクジラ型の噴水で(妙にリアルな造形です)、全国の児童公園にある動物型遊具の先駆け的な存在でしょうか。

 次の文化審議会は10月15日(金)の国宝・重要文化財(建造物)の指定および重要伝統的建造物群保存地区の選定ですね。楽しみです。

posted by きむら at 17:36 | Comment(0) | TrackBack(0) | 文化財

2021年06月20日

【文化審議会答申】史跡等の指定等について


 先日6月18日(金)に開催された文化審議会において、「史跡等の指定等」の答申がありました。内容は以下の通りです。

《史跡》
・栗木鉄山跡【岩手県気仙郡住田町】
・天王山遺跡【福島県白河市】
・取掛西貝塚【千葉県船橋市】
・飯盛城跡【大阪府大東市、四條畷市】
・條ウル神古墳【奈良県御所市】
・伊勢本街道【奈良県宇陀郡曽爾村】
・久喜銀山遺跡【島根県邑智郡邑南町】
・佐田谷・佐田峠墳墓群【広島県庄原市】
・弓削島荘遺跡【愛媛県越智郡上島町】
・陣ノ内城跡【熊本県上益城郡甲佐町】

《名勝》
・臥龍山荘庭園【愛媛県大洲市】

《天然記念物》
・葦毛湿原【愛知県豊橋市】

《登録記念物(名勝地関係)》
・松樹館庭園【滋賀県東近江市】
・漢陽寺庭園【山口県周南市】

《重要文化的景観》
・錦川下流域における錦帯橋と岩国城下町の文化的景観【山口県岩国市】

《史跡の追加指定及び名称変更》
・志段味古墳群 白鳥塚古墳 尾張戸神社古墳 中社古墳 南社古墳 志段味大塚古墳 勝手塚古墳 白鳥古墳群(東谷山白鳥古墳に隣接する白鳥5号墳・7号墳を追加指定し、名称を白鳥古墳群に変更する)【愛知県名古屋市】
・阿波遍路道 大日寺境内 地蔵寺境内 焼山寺境内 一宮道 常楽寺境内 恩山寺道 立江寺道 鶴林寺道 鶴林寺境内 太龍寺道 かも道 太龍寺境内 いわや道 平等寺道 平等寺境内 雲辺寺道(平等寺境内に向かう平等寺道及び平等寺境内【徳島県阿南市】を加える)
・土佐遍路道 竹林寺道 禅師峰寺道 清瀧寺境内 青龍寺道 観自在寺道(清瀧寺境内【高知県土佐市】及び観自在寺道【高知県宿毛市】を加える)

《名勝の追加指定及び名称変更》
・おくのほそ道の風景地 草加松原 ガンマンガ淵(慈雲寺境内) 八幡宮(那須神社境内) 殺生石 遊行柳(清水流るゝの柳) 黒塚の岩屋 武隈の松 つゝじが岡及び天神の御社 木の下及び薬師堂 壺碑(つぼの石ぶみ) 興井 末の松山 籬が島 金鶏山 高館 さくら山 本合海 三崎(大師崎) 象潟及び汐越 親しらず 有磯海 那谷寺境内(奇石) 道明が淵(山中の温泉) 湯尾峠 けいの明神(氣比神宮境内) 大垣船町川湊)(湯尾峠【福井県南条郡南越前町】を加える)

 戦国時代において最初に畿内を掌握したことから初代天下人とも称される三好長慶が晩年を過ごした飯盛城跡が史跡になります。山の尾根を利用した中世山城ですが、近年の調査によって城跡の全域から石垣が確認されており、畿内を中心とする政治・軍事の様相や、中世山城から織豊系城郭へと遷移していく過程を知る上で重要と評価されました。


土の城が基本の中世山城において石垣を多用している飯盛城跡

 他にも大和盆地から伊勢へと向かう主要街道であった「伊勢本街道」、古くより製塩を行ない塩を献上していた荘園の面影を色濃く残す「弓削島荘遺跡」など興味深いところが多いですね。

 毎度の恒例となっている四国遍路の史跡指定では『阿波遍路道』に第22番札所平等寺へと向かう「平等寺道」および「平等寺境内」が追加されました。相変わらず徳島県は遍路道の史跡指定に熱心で頑張ってる感じですね。


「平等寺道」のうち現在も歩く遍路が多い大根峠の前後の区間

 『土佐遍路道』には第35番札所「清瀧寺境内」および第40番観自在寺に向かう「観自在寺道」が追加。かつての国境越えにあたる松尾峠の遍路道は既に愛媛県側が『伊予遍路道』の一部として史跡になっていますが、その高知県側が今回追加指定された形です。


土佐から伊予へ、国境の松尾峠へと上る「観自在道」

 重要文化的景観では岩国城とその城下町を含む「錦川下流域における錦帯橋と岩国城下町の文化的景観」が選定されました。城山の山麓である横山地区には藩主の居館と上級武士の館が、錦川を挟んだ対岸の岩国地区には中下級武士や町人地が広がっており、その両地区をかの有名な錦帯橋が繋いでいます。岩国地区には今もなお格子状の地割が見られ、古い町家も残っています。


岩国城から見る錦帯橋、および横山地区(下側)と岩国地区(上側)

 以前より岩国市は錦帯橋とその周辺を世界遺産にしようと動いており、まずは城下町の重要伝統的建造物群保存地区選定を目指すと聞いていた気がしますが、結果的には重要文化的景観になったようですね。以前行って見た感じ、重伝建はちょっと厳しそうな印象を受けましたので、これは良い舵取りなのではないかと思います。

posted by きむら at 14:25 | Comment(0) | TrackBack(0) | 文化財

2021年05月23日

【文化審議会答申】重要文化財(建造物)の指定および重伝建の選定について


 5月21日(金)に開催された文化審議会において、「重要文化財(建造物)の指定について」および「重要伝統的建造物群保存地区の選定について」の答申がありました。内容は以下の通りです。

【重要文化財】
・木村産業研究所 1棟(青森県弘前市)
・代々木競技場 2棟 第一体育館、第二体育館(東京都渋谷区)
・御前埼灯台 1基、1棟 灯台、旧官舎(静岡県御前崎市)
・長命寺 2棟 三仏堂、護法権現社拝殿(滋賀県近江八幡市)
・第一大戸川橋梁 1基(滋賀県甲賀市)
・旧松坂屋大阪店 1棟(大阪府大阪市)
・旧西脇尋常高等学校 3棟 第一校舎、第二校舎、第三校舎(兵庫県西脇市)

【重要伝統的建造物群保存地区】
・南越前町今庄宿(福井県南条郡南越前町)
・若桜町若狭(鳥取県八頭郡若桜町)
・廿日市市宮島町(広島県廿日市市)

 モダニズム建築の巨匠ル・コルビュジエに師事した前川國男が、帰国後最初に築いた「木村産業研究所」が重文に。日本に現存する最古のモダニズム建築として建築史上重要な作品です。

 前川國男に続き、戦後を代表する建築家である丹下健三が手掛けた「代々木競技場 第一・第二体育館」も重文に。氏の作品としては「広島平和記念資料館」に続く2例目です。昭和39年(1964年)の東京オリンピックの際に築かれた大規模建築で、ワイヤーで天井を吊り下げて広大な空間を作り出しているのが特徴です。戦後期の日本建築における最高傑作と名高く、世界遺産を目指そうという動きもあるようです。

 去年「犬吠埼灯台」など明治初頭にお雇い外国人のリチャード・ブラントンによって設置された4基の灯台が重文になりましたが、今回もまた「御前埼灯台」が重文に。この流れは今後も続き、当初の姿をとどめるブラントン灯台の重文化が進められていくのでしょう。


現在は灯台としての役目を終え、内部の見学もできる「御前埼灯台」

 木造校舎が好きな身としては「旧西脇尋常高等学校」も気になります。昭和初期の木造校舎が3棟連結された貴重な校舎群で、現役で使用されている小学校の校舎としては愛媛県の「日土小学校 中校舎」、和歌山県の「旧高野口尋常高等小学校校舎」に次ぐ3例目です。

 重伝建の新選定は、北陸道の宿場町であった「南越前町今庄宿」、鬼ヶ城の城下町を起源とする山間の商家町「若桜町若狭」、厳島神社の門前町である「廿日市市宮島町」の3件。いずれも以前より選定に向けての動きが見られた地区ですが、中でも宮島町はかなり前から手続きが進められていたので、ようやくかといった印象です。


厳島神社を取り囲む「宮島町」のうち東町の「町家通り」


こちらは厳島神社から大聖院へと続く「西町」の町並み

 東町は海岸に沿って弓なりに続く路地に町家が並び、西町は厳島神社の附属寺院である大聖院や大願寺、社家などを中心に土塀や石垣が続く落ち着いたたたずまい。通りによって町並みの表情が異なるのが特徴的です。

 今回の重文指定は少なめですが、やはりコロナ禍の影響により調査に遅れが出ているとのことです。次の文化財答申は、例年通りであれば6月18日(金)に史跡等指定ですね。楽しみです。

posted by きむら at 19:16 | Comment(2) | TrackBack(0) | 文化財