2021年12月18日

【文化審議会答申】史跡等の指定等について


 昨日、12月17日(金)の文化審議会において、「史跡等の指定等」の答申がありました。内容は以下の通りです。

《史跡》
・三戸城跡【青森県三戸郡三戸町】
・柏木城跡【福島県耶麻郡北塩原村】
・八代海干拓遺跡【熊本県八代市】

《名勝》
・徳佐(サクラ)【山口県山口市】

《天然記念物》
・礼文島桃岩一帯の高山植物群落【青森県礼文郡礼文町】
・アケボノゾウ化石多賀標本【滋賀県犬上郡多賀町】
・東峰村の阿蘇4火砕流堆積物及び埋没樹木【岡山県朝倉郡東峰村】

《登録記念物(名勝地関係)》
・鍋山(南屏峡)【大分県豊後高田市】

《史跡の追加指定及び名称変更》
・田和山・神後田遺跡【島根県松江市】(田和山遺跡に神後田遺跡を追加する)

《重要文化的景観の追加選定及び名称変更》
・五島列島における瀬戸を介した久賀島及び奈留島の集落景観【長崎県五島市】(久賀島全域に奈留島の大串集落及び江上集落並びに周辺海域を追加する)

 新指定文化財の中で特に興味深いのは「八代海干拓遺跡」でしょうか。明治後期から昭和初期に築かれた潮受け堤防と樋門から成り、八代海における干拓の歴史および近世から近代に至る干拓技術の発展を物語ります。

 今回史跡になる干拓施設群のうち、明治期に煉瓦造と石造で築かれた旧郡築新地甲号樋門は重要文化財にも指定されており、またコンクリートが普及した昭和初期にあえて石造で築かれた郡築二番町樋門は国登録有形文化財です。

 重要文化的景観(以下重文景)の新規選定はありませんでしたが、既選定の「久賀島の文化的景観」に奈留島北西部とその周辺海域が追加され、「五島列島における瀬戸を介した久賀島及び奈留島の集落景観」という名称に変更されました。

 長崎県では『長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産』を世界遺産に推薦するにあたり、その前提条件にあたる各集落の法的な保存担保措置として重文景の選定が進められてきました。唯一、奈留島の江上集落だけは重文景に選定されておらず、江上天主堂の重要文化財指定の土地範囲、および五島市景観計画の景観重要地区を策定するのみで、集落の保存措置としては完全なものではありませんでした。


奈留島の江上集落にある江上天主堂(重要文化財)

 今回の追加選定では、奈留島北西部の大串集落(古来からの仏教徒集落)と江上集落(潜伏キリシタン集落)を、瀬戸を隔てて隣接する久賀島の仏教集落群・潜伏キリシタン集落群と一体の文化的景観として評価することで、江上集落を含む範囲の追加選定が実現しました。これで江上集落も国レベルの高度な保存担保措置が完了したことになります。

 さて、今回はコロナ禍の影響で全国的に調査があまり進まなかったのか、新指定の件数がなんだか寂しいなぁという印象です。毎回おなじみの四国遍路の追加指定もありませんでしたし。来年の文化審議会は1月の民俗文化財、3月の登録有形文化財、6月の史跡等と続きます。今後も様々な文化財が誕生すると良いですね。楽しみです。

posted by きむら at 19:24 | Comment(0) | TrackBack(0) | 文化財

2021年11月21日

【文化審議会答申】国宝・重要文化財(建造物)の指定について


 11月19日(金)に開催された文化審議会において、「国宝・重要文化財(建造物)の指定について」および「登録有形文化財(建造物)の登録について」の答申がありました。内容は以下の通りです。

【国宝】
・霧島神宮本殿・幣殿・拝殿 1棟(鹿児島県霧島市)

【重要文化財】
・旧三井銀行小樽支店 2棟 本館、附属屋(北海道小樽市)
・ニッカウヰスキー余市蒸留所施設 10棟 事務所棟、蒸留棟、貯蔵棟、リキュール工場、第一乾燥塔、第二乾燥塔、研究室・居宅、旧事務所、第一貯蔵庫、第二貯蔵庫(北海道余市郡余市町)
・上野家住宅(山梨県山梨市東) 5棟 主屋、文庫蔵、質蔵、穀蔵、表門(山梨県山梨市)
・京都ハリストス正教会生神女幅員聖堂 1棟(京都府京都市)
・江埼灯台 1基(兵庫県淡路市)
・美保関灯台 3棟 灯台、旧官吏員退息所、旧第一物置(島根県松江市)
・出雲日御埼灯台 1基(島根県出雲市)
・香川県庁舎旧本館及び東館 1棟(香川県高松市)
・若戸大橋 1基(福岡県北九州市)
・鹿児島神宮 3棟 本殿及び拝殿、勅使殿、摂社四所神社本殿(鹿児島県霧島市)

 近年における国宝建造物の指定は、まだ一件も国宝建造物が存在しない県からの指定を進めるという方針できており、今回もまたその流れを汲んで、鹿児島県から「霧島神宮」が県内初の国宝建造物になります。

 鹿児島県は先月の九州旅行で行ってきたばかりだったのですが、早くも再び行かねばならぬ理由ができました。いつも桜島から鹿児島市にフェリーで渡ってしまうので、霧島の辺りは一度も行ったことがないんですよね。

 重文指定の筆頭は「ニッカウヰスキー余市蒸留所施設」。昭和初期に築かれた施設群で、ウイスキーの蒸留所として初の重文となります。私は2015年に訪れましたが、蒸留所の一帯だけまるで空間が切り取られているかのような、実に素晴らしい雰囲気でした。創建当初の建物がまとまって残っており、重文になるべくしてなった施設だと思います。


正門を兼ねる事務所棟は、まるで西洋城郭のよう


石壁に赤い屋根の建物が連なっており、統一感ある景観を作っています

 余市蒸留所については、デイリーポータルZの記事にもしていますので、詳しくはこちらをご覧ください。→「余市蒸留所の異次元っぷりに驚いた

 昨年より、明治初頭に築かれたブラントン灯台の重文指定が続いていましたが、今回もまたブラントン灯台の「江埼灯台」が重文になります。さらには明治中期に日本人技術者によって築かれた「美保関灯台」および「出雲日御埼灯台」も重文となり、灯台の文化財としての厚みがより増した感じですね。

 今年の春には丹下健三の代表作である「代々木競技場」が重文指定の答申を受けていますが、今回もまた同氏が手掛けた「香川県庁舎旧本館及び東館」が重文に。また去年は長大橋の先駆けである「西海橋」が重文になりましたが、今回はその発展形といえる「若戸大橋」が重文に。

 今回の答申は、明治灯台、丹下建築、長大橋と、全体的に去年からの流れがそのままきているという感じの印象でした。個人的には重要伝統的建造物群保存地区の選定がなくて残念です。

 例年は10月の第三金曜日が建造物の答申で、11月の第三金曜日が史跡等の答申なのですが、今年は新設の無形登録文化財および美術工芸品の答申が10月に組み込まれたので、建造物が11月にズレたようです。となると史跡等の答申は12月17日(金)でしょうか。楽しみですね。

posted by きむら at 14:25 | Comment(0) | TrackBack(0) | 文化財

2021年07月23日

【文化審議会答申】国宝(美術工芸品)の指定等について


 2021年7月16日(金)に開催された文化審議会で「国宝・重要文化財(美術工芸品)の指定」「重要無形文化財の指定及び保持者の認定等」「選定保存技術の選定・認定・解除」「登録無形民俗文化財の登録」「登録有形文化財(建造物)の登録」についての答申がありました。内容は以下の通りです。

《国宝(美術工芸品)の指定》
・絹本著色春日権現験記絵 高階隆兼筆
・紙本著色蒙古襲来絵詞
・紙本金地著色唐獅子図 狩野永徳筆 六曲屏風
・絹本著色動植綵絵 伊藤若冲筆
・屏風土代 小野道風筆 保延六年十月廿二日藤原定信奥書

《重要無形文化財の指定及び保持者の認定等》
省略

《選定保存技術の選定・認定・解除》
省略

《登録無形民俗文化財の登録》
・讃岐の醤油醸造技術【香川県】
・土佐節の製造技術【高知県】

《登録有形文化財(建造物)の登録》
省略

 宮内庁の「三の丸尚蔵館」が保管する5つの品々が国宝に。いずれも歴史の教科書でおなじみの超一級文化財です。これまで宮内庁が所管する品々は文化財保護法の範疇外とされており、文化財指定はされてきませんでした。

 唯一の例外として、「正倉院正倉」だけは世界遺産『古都奈良の文化財』の構成資産であることから国宝に指定されています。世界遺産の構成資産となるためには、法的な保護措置が担保されていなければならないという手続き上の事情によるものでした。


宮内庁所管の文化財では、これまで唯一の国宝であった「正倉院正倉」

 ところが、ここに来て宮内庁所管の美術品5件が一気に国宝に指定とは、かなり驚きました。どうやらこれからは、宮内庁所管の美術工芸品を積極的に地方美術館へ貸し出す方針とのことで、それらの品々の価値を分かりやすく示すべきと宮内庁の有識者会議が提言したことにより、今回の国宝指定が実現したようです。これからは宮内庁所管の品々が文化財に指定されていき、国宝や重要文化財の数が一気に増えることでしょう。時代の流れですね。

 国内のみならず海外にもその価値を発信していくには、文化財指定を進めるのは良いことだと思います。ゆくゆくは美術工芸品のみならず建造物や庭園へと広がっていき、宮内庁が所管する様々なモノの歴史的価値が分かりやすくなると良いのではないでしょうか。具体的には単独で世界遺産級の価値がある「桂離宮」の国宝&特別史跡&特別名勝指定とか。


日本庭園の最高傑作「桂離宮」はもっと広く知られるべきだと思います

 他にも、今回は新たに創設された「登録無形民俗文化財」の第一弾として「讃岐の醤油醸造技術」と「土佐節の製造技術」が登録されました。食に関する文化財としては、今年「阿波晩茶の製造技術」が重要無形民俗文化財に指定されましたが、今回導入された登録制度によってその裾野が広がった感じですね。ユネスコの無形文化遺産リストに「和食」が記載されたこともあり、各地の食文化や身近な伝統文化の登録が増えていくことでしょう。

 一覧は省略しましたが、登録有形文化財では根室と国後島を繋いでいた海底ケーブルの陸揚げ施設「根室国後間海底電信線陸揚施設」や、名古屋市の「道徳公園クジラ池噴水」などが気になります。特に「クジラ池噴水」は昭和2年に築かれたクジラ型の噴水で(妙にリアルな造形です)、全国の児童公園にある動物型遊具の先駆け的な存在でしょうか。

 次の文化審議会は10月15日(金)の国宝・重要文化財(建造物)の指定および重要伝統的建造物群保存地区の選定ですね。楽しみです。

posted by きむら at 17:36 | Comment(0) | TrackBack(0) | 文化財