2007年02月23日

山手線の線路を歩いた思い出-前編


携帯電話のメモリを整理していたら、なんか妙な写真がいくつか出てきた。写メール用のやや小さいサイズで記録されたそれらの画像には、線路の上を歩く大勢の人々が写っている。日付は2006年4月24日。

あぁ、そうだ、忘れていた。私は、あの列車事故に巻き込まれていたんだ――



それは朝の10時20分ぐらいだったろうか。私は会社に出るべく、いつものように山手線内回りの列車へと乗り込んだ。月曜日ということもあり、ややけだるさを感じる朝だった。天気はやたら良かったように思う。

私が車内に入るとほぼ同時にドアは閉まり、発車した。私はそのままドアの脇にもたれかかると、車内に眼を落とす。ラッシュタイムを過ぎているということもあってか、乗客はまばら。私の前に立っていた大学生風の女の子が、凄い速さの指使いで携帯電話のメールを打っていた。いたって普通の、通勤風景。

そのような中、突然列車がブレーキをかけ、停車した。場所は高田馬場駅を出てすぐ。車内にはレールが擦れる甲高い音が響き、慣性に煽られた乗客が思わず前につんのめった。突然の揺れに、私も手摺を握って対処した。停車後も乗客は特に騒ぎになるようなこと無く、いたって冷静だった。列車で通勤していれば、それこそ数ヶ月に一度や二度、列車が急停車することなんてよくあることだ。

停車後すぐに車掌からアナウンスがあった。「前方を走っていた湘南新宿ラインが、異常な音を感知したため急停車しました」、とのことだ。「安全を確認次第発車します」、とも言っていた気がする。どうせ数分もすれば動き出すことだろう。私を含め、列車に乗り合わせていた誰もがそう思っていたはずだ。

しかし、列車はなかなか動かない。10時50分を過ぎ、私は焦り始めていた。毎週月曜日の11時半は定例会議が入っているのだ。とりあえず、列車に閉じ込められ遅刻しそうだとの旨のメールを同僚に打っておく。

11時10分を過ぎ、再び打った私のメールの内容は、会議の遅刻から欠席へと変わっていた。車内は相変わらず静かであったが、その様子は微妙に変化していた。会話は無いならがもメールを打つ音やため息があちらこちらから聞こえてくる。私自身、密閉された車内の中、やや息苦しさを感じてきた。いつになったらこの列車は動くんだ、いつになったらこの列車は動くんだ、いつになったら……



異変は11時20分過ぎに起きた。私のいるドア付近に、JR関係の作業員らしき人々がわらわらと集まり始めたのだ。そして、ちょうど私の立っている位置の真下にやってきて、何かを調べ始めた。一人はカメラで線路の辺りを写真を撮り、別の一人は列車の下のあたりを指差している。いったいどういうことなのだろうか。先ほどの車掌の放送では、異常な音を感知したのは湘南新宿ラインなのだろう。なぜこの列車に作業員がやってくるんだ。

山手線の線路を歩いた思い出-01

集まってきた作業員

やがて外からバラバラバラという音が聞こえてきた。何事かと思い窓から空を見上げてみると、そこにはヘリコプターの姿があった。そのヘリコプターは、この列車の周囲だけを旋回し続けているようだ。ドア外にいる作業員の数も、さらにどんどん増えてきた。もはやこれはただ事ではない。

その作業員の様子をしばらく観察していると、それはどうも列車ではなく線路を調査しているように思えてきた。皆、列車自体にはまったく目もくれず、列車下を覗き込むようにしているのだ。そしてようやく私は気が付いた。前方を走っていた湘南新宿ラインが異常な音を感知したという場所は、現在この列車が停車しているまさにこの下であったということに。

「線路が隆起しているため列車を動かすことができません」。しばらくして、そのような放送が車内に流れた。……となると、どうなるんだ? 運行再開の見通しが立たない中、まさかずっとここにいさせるわけにもいかないだろう。一体、これから私たち乗客はどうすることになるんだ?

この時点で、もはや会社に遅刻するなんていうことはどうでもよくなっていた。不謹慎ながら、私はわくわくしていた。これから自分たちがどのような行動を取らされるかを想像すると、思わず顔が緩んでしまう。列車を動かすことができないということは、まずクレーンかなにかで列車をどかして、それから線路を補修するということだろう。それを行うには、要するに乗客を出す必要がある。動かない列車から乗客を出すということは……

そしてついに、決定的な一言が車掌より告げられた。「線路に下りて、歩いて高田馬場駅まで戻っていただきます」。私はやったと思った。



posted by きむら at 09:27 | Comment(0) | TrackBack(0) | コネタ
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/32253213
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック