2021年7月16日(金)に開催された文化審議会で「国宝・重要文化財(美術工芸品)の指定」「重要無形文化財の指定及び保持者の認定等」「選定保存技術の選定・認定・解除」「登録無形民俗文化財の登録」「登録有形文化財(建造物)の登録」についての答申がありました。内容は以下の通りです。
《国宝(美術工芸品)の指定》
・絹本著色春日権現験記絵 高階隆兼筆
・紙本著色蒙古襲来絵詞
・紙本金地著色唐獅子図 狩野永徳筆 六曲屏風
・絹本著色動植綵絵 伊藤若冲筆
・屏風土代 小野道風筆 保延六年十月廿二日藤原定信奥書
《重要無形文化財の指定及び保持者の認定等》
省略
《選定保存技術の選定・認定・解除》
省略
《登録無形民俗文化財の登録》
・讃岐の醤油醸造技術【香川県】
・土佐節の製造技術【高知県】
《登録有形文化財(建造物)の登録》
省略
宮内庁の「三の丸尚蔵館」が保管する5つの品々が国宝に。いずれも歴史の教科書でおなじみの超一級文化財です。これまで宮内庁が所管する品々は文化財保護法の範疇外とされており、文化財指定はされてきませんでした。
唯一の例外として、「正倉院正倉」だけは世界遺産『古都奈良の文化財』の構成資産であることから国宝に指定されています。世界遺産の構成資産となるためには、法的な保護措置が担保されていなければならないという手続き上の事情によるものでした。

宮内庁所管の文化財では、これまで唯一の国宝であった「正倉院正倉」
ところが、ここに来て宮内庁所管の美術品5件が一気に国宝に指定とは、かなり驚きました。どうやらこれからは、宮内庁所管の美術工芸品を積極的に地方美術館へ貸し出す方針とのことで、それらの品々の価値を分かりやすく示すべきと宮内庁の有識者会議が提言したことにより、今回の国宝指定が実現したようです。これからは宮内庁所管の品々が文化財に指定されていき、国宝や重要文化財の数が一気に増えることでしょう。時代の流れですね。
国内のみならず海外にもその価値を発信していくには、文化財指定を進めるのは良いことだと思います。ゆくゆくは美術工芸品のみならず建造物や庭園へと広がっていき、宮内庁が所管する様々なモノの歴史的価値が分かりやすくなると良いのではないでしょうか。具体的には単独で世界遺産級の価値がある「桂離宮」の国宝&特別史跡&特別名勝指定とか。

日本庭園の最高傑作「桂離宮」はもっと広く知られるべきだと思います
他にも、今回は新たに創設された「登録無形民俗文化財」の第一弾として「讃岐の醤油醸造技術」と「土佐節の製造技術」が登録されました。食に関する文化財としては、今年「阿波晩茶の製造技術」が重要無形民俗文化財に指定されましたが、今回導入された登録制度によってその裾野が広がった感じですね。ユネスコの無形文化遺産リストに「和食」が記載されたこともあり、各地の食文化や身近な伝統文化の登録が増えていくことでしょう。
一覧は省略しましたが、登録有形文化財では根室と国後島を繋いでいた海底ケーブルの陸揚げ施設「根室国後間海底電信線陸揚施設」や、名古屋市の「道徳公園クジラ池噴水」などが気になります。特に「クジラ池噴水」は昭和2年に築かれたクジラ型の噴水で(妙にリアルな造形です)、全国の児童公園にある動物型遊具の先駆け的な存在でしょうか。
次の文化審議会は10月15日(金)の国宝・重要文化財(建造物)の指定および重要伝統的建造物群保存地区の選定ですね。楽しみです。