2015年07月08日

世界遺産「サンティアゴ巡礼路」の構成資産は超膨大


先日の世界遺産委員会において「明治日本の産業革命遺産」が世界遺産になりました。他にも世界中で数多くの世界遺産が誕生し、既に世界遺産であるスペインの「サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」には、カミーノ・デル・ノルテ(北の道)やカミーノ・プリミティボ(原始の道)など、スペイン北海岸沿いの巡礼路が追加され、名称も「スペイン北部のサンティアゴ巡礼路」に変わりました(以下「サンティアゴ巡礼路」とします)。


スペインのサンティアゴ巡礼路「フランス人の道」

また類似の世界遺産として、フランス国内のサンティアゴ巡礼路や巡礼に関する文化財をまとめた「フランスのサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」があります(以下「フランスのサンティアゴ巡礼路」とします)。


フランスのサンティアゴ巡礼路「ル・ピュイの道」

サンティアゴ巡礼路は2012年に歩いたこともあって個人的に思い入れが強く、今回追加された「北の道」や「原始の道」もいつか歩くと心に決めたところなのですが、ふとその構成資産はどうなっているのだろうと思い、調べてみました。とりあえず今回新たに登録された部分は置いといて、1993年に世界遺産となった「フランス人の道」と「アラゴンの道」の範囲です。

私は巡礼路を歩く前、サンティアゴ巡礼路という名称なのだから登録対象は巡礼路、つまり道とか橋だけだと思っていました。しかしながら巡礼の途中でカリオン・デ・ロス・コンデスという町の外れにある「サン・ソリオ修道院」に立ち寄った際、「この建築は世界遺産です」という旨の記述を見つけ、サンティアゴ巡礼路の構成資産は道だけじゃないと初めて気付いたのでした。


サンティアゴ巡礼路の構成資産のひとつ「サン・ソリオ修道院」

では他になにが構成資産に含まれているのでしょうか。いちおう巡礼の直後にも調べてみたのですが、その時点は詳しい資料を見つけることはできませんでした。しかし改めて調べ直してみると、UNESCOの世界遺産サイトのサンティアゴ巡礼路のページに、構成資産を記した資料が新たに追加されているではありませんか(300MBを超えるpdfファイルで、めちゃくちゃ重いので開くには注意が必要です)。

それを見ると、なんと驚き。サンティアゴ巡礼路の構成資産は、巡礼路以外に1912件もの建造物が含まれていたのです。「サン・ソリオ修道院」はその膨大な構成資産のひとつにしか過ぎませんでした。

構成資産になっている対象は、巡礼路や橋は当然のこと、巡礼路沿いの町や村にある教会や修道院といった宗教施設、古い町並みや個人住宅、市庁舎・学校・病院などの公共施設、町を巡る城壁や門、十字架や噴水などのモニュメントなどなど。中には闘牛場や鳩小屋まで含まれています。


ピレネー越えた巡礼者が泊まる「ロンセスバージェス」も世界遺産


単独でも世界遺産の「ブルゴス大聖堂」は、二重登録の例だ

そのラインナップは実に多彩で、サンティアゴ巡礼に直接的に関わりがなくても、巡礼路沿いにある文化財ならとりあえずぶちこんでいるような印象です。巡礼路を歩いていて目に留まる古いモノは、そのほとんどが世界遺産「サンティアゴ巡礼路」の構成資産でした。


ベロラドの町並み、そしてこの写真を撮った城跡も構成資産

また巡礼路の途中にはアントニ・ガウディの作品が二棟存在します。レオンの「カサ・デ・ロス・ボティネス」とアストルガの「司教館」ですが、これらも構成資産でした。バルセロナにあるガウディの建築は「アントニ・ガウディの作品群」として世界遺産になっていますが、レオンとアストルガの建築もまた、「サンティアゴ巡礼路」として世界遺産だったのです。


レオンの「カサ・デ・ロス・ボティネス」と、その周辺の建物も構成資産

構成資産の範囲は巡礼路沿いのみならず、巡礼路から外れた町や村の物件も含まれています。巡礼の後半、私はメインの巡礼路から外れた「カストリージョ・デ・ロス・ポルアサレス」という村を訪れました。中世の趣きを残した美しい町並みの村なのですが、ここもまた構成資産でした。


素晴らしい町並みの「カストリージョ・デ・ロス・ポルアサレス」


同じくメインルートから外れた位置にある「サモス修道院」も構成資産

構成資産の年代基準もイマイチ分かりません。サンティアゴ巡礼のルーツは中世ですが、先に述べたガウディの作品は19世紀後半ですし、ラ・ビルヘン・デル・カミーノという町の教会は1950年建造のモダニズム建築ですが、これもまた構成資産に含まれています。中世のロマネスクから現代のモダニズムまで、良く言えば包括的、悪く言えば節操のないラインナップです。


完全なるロマネスクの「サン・マルティン教会」、もちろん構成資産


しかし、まさかこのモダニズム教会も構成資産だったとは、驚きだ

巡礼路の方も、舗装路が含まれているなど、なかなかアグレッシブです。世界遺産は保護措置が法的に担保されているのが前提条件。日本の場合は文化財保護法で史跡などに指定されている必要があります。古道の場合、史跡の指定を受けるには昔の様相が残っていなければならず、すなわち未舗装が基本なのです(なおかつ物証も必要です)。

1998年に世界遺産となった「フランスのサンティアゴ巡礼路」の方は、もっと厳密に構成資産が決められています。巡礼路も昔ながらの風情が残る未舗装部分のみが対象で、なおかつ建築物も橋や大聖堂、修道院といった、サンティアゴ巡礼に直接関わるもののみです。


フランスのコンクは素晴らしく美しい村だが、世界遺産なのは教会と橋だけだ

2004年に世界遺産となった日本の「紀伊山地の霊場と参詣道」もまた同様。史跡に指定された未舗装路部分が対象で、構成資産も高野山・吉野山・熊野三山の霊場をはじめ、道中の王子など熊野参詣に関わるもののみ世界遺産となっています。

サンティアゴ巡礼路が世界遺産となった90年代前半は、まだ審査が緩かった時代だと思うので、これはこれでアリだったんだと思いますが、今だと間違いなくICOMOSからNGを食らうでしょう。ちなみに今回追加登録された「北の道」や「原始の道」は、UNESCOのサイトを見ると北海岸に沿って断片的にプロットが見られます。おそらく構成資産は未舗装路のみ、建造物も教会など巡礼に関わるもののみが対象になっていると思われます。

それにしても、巡礼路上で見た数々の教会、町並み、モニュメントがことごとく世界遺産だったとは。なんともスペインらしい、おおらかかつ大胆な世界遺産でした。


posted by きむら at 13:31 | Comment(1) | TrackBack(0) | 文化財